1997年9月×日 それはいつもと変わらない1日になるハズだった。
男子校に通う翔は、いつも見慣れた教室でいつも通りの時間を過ごしていた。 その日は六限だった授業が五限になったため、少しの早めの下校となった。 翔が通っていた学校は、教師の都合で授業がなくなるというのがよくあり、別に不思議なコトではなく、むしろ思春期を生きる健全な高校生からしてみれば嬉しいかぎりだ。 そんな朗報を聞いて、湧き立つクラスメイト達。帰り支度をして、教室を出る。翔はいつも下校する相手が違っていた。というのも、翔の中学からこの高校に入学したのは翔ただ独りだった。中学時代にあまり人と話すのを得意としていなかった翔にとって、独りでこの高校に通うコトは、日本語しか話せない日本人が異国の地に単身で乗り込むコトに等しかった。 そんな翔がとった行動ば、手当たり次第に声をかけるということだった。 『とにかく友達を作らなき ゃ』 という思いがそうさせたのだろう。 高校に入学して五ヵ月。気付いてみたら翔はクラス全員と話をするようになっていた。クラス内はいくつかの仲の良いグループが出来ていたが、翔はどのグループにも属していなかったため、下校時に「帰ろう」と誘ってくる相手が毎回違っていた。 その日、一緒に帰っていたのはナオキとマサト。 二人は高校の中等部からの友達でエスカレーター式に上がってきたのだ。もちろん男子中学である。そのせいか女友達が多い、というより『女』に慣れていると言ったほうが正確だろう。翔からしてみると、いつも同じ男ばかりのグループで過ごしていて、女子と話すコトも少なかった中学時代の自分と比べてみればスゴイことだった。 そんな二人といつもの道を帰っていた。 学校を出てすぐに交差点があり、その向こうにコンビニがある。いつもそこに寄ってジュースだのなんだのを買い、それを飲み食いしながら帰るのが日課だった。 信号を待ち、青になり、歩きだす三人。すると、視野の中にナオキが突然手を挙げ、大きく振っているのが飛び込んできた。 「何しよん、ナオキ」 驚いた顔で翔が聞く。 「いや、あのコかわいいな ぁと思って」 ナオキに言われ、翔はナオキの視線の先を見た。