初めて小野瀬さんの車に乗った。無駄なものはない小綺麗な車内。相変わらず緊張の糸はピンとはったまま。猛烈に口が渇く感覚だけが私を支配する。体の右側だけが熱く硬くなっているのがわかる。
「あのさ… ちょっと休憩付き合ってくれる?」
確かそんな台詞だった。その言葉に小さく頷いて以降、特に会話をかわしていない。
まったく事態がのみこめない。
ない唾を必死に飲み込んでみる。
次の瞬間緊張の糸を切ったのは彼だった。
「お肉好き?」
拍子抜けするほどの無邪気な笑顔。
なんだか小野瀬さんじゃない人みたいに思えて、緊張感がいっきにほどけていった。
高速にのり、上品な旅館へ着いた。
まずは温泉に入ることにし、部屋で落ち合うことにした。
お湯にゆっくりつかったわけでもないが、お化粧直しやら髪の結い直しやらで結局かなりゆっくりしてしまった。急いで部屋までいき引き戸をあけると、相変わらず無邪気な笑顔の彼がいた。髪の毛が少し湿っていて、浴衣姿で和室に座っていた。
あまりにも絵になる。
たいして温泉につかってもいないのに胸が苦しいほど体がほてっている。
でも、不思議と会社にいたときのような嫌な緊張感はない。 彼との距離が確かに縮まっているのを感じた。
そして、何気ない会話をしながら穏やかな時間が流れた。
私、間違ってない!この人はこんなにもあたたかくて優しい。
私、この人が好き。
そのとき、遠くから私を呼ぶ乱暴な声が聞こえた。
何!?? 不安で胸が締め付けられる。 小野瀬さんの笑顔が見えない…!
「寝てんじゃねぇよ…、おまえ最後鍵しめろよ」
?????
目の前には、意味不明な文字が延々とタイプされたパソコン…
ちょっとだけ湿ってる袖。
夢かよ(>_<)
いそいそと帰り支度をする小野瀬さんの背中をぼんやり眺めながら思った。
それでもやっぱり私、小野瀬さん好きよ。
ほんとは優しいくせに♪