その夜私はストレスによる熱でうなされていた。心が膨れて、身体からはみ出てしまいそうな想いだった。母がたびたび様子を伺いにくる。側にくると母の冷たい手が額をおおってくれる。
ふと目を開けるとリビングから光がもれているのが見えた。
『まま、まだ起きてるのかな?』
重たい体を起こし、ドアの隙間からのぞく。私はその時、ふと前にみた光景を思い出した。だからこそ、熱のせいでみる怖い夢より、恐ろしいものをみようとしている感覚だった。
リビングを除くと母がいる。母はやはり泣いているようだ。相変わらずお酒を手にしている。しかし、父の姿はなかった。ほっとして母に歩み寄ろうとした。その時、
「なんで子供なんか産んだんだろう。いなくなればいいのに…」
母がつぶやいたその言葉が、呪文の様に聞こえた。私はもうろうとする意識の中で、呪文に従ってベランダに向かった。
ベランダを開ける音で母は私がいたことをしった。
「あっ!…なに…してる…」
母が言葉を言い終わらない内に私はふわっと子供らしく笑った。
「ママごめんなさい。嫌いにならないで。」
ドサッ
遠ざかる意識の中で私は母の叫び声を聞いた。その声が私には、
嫌いじゃないよ。私のかわいい子。
と、そう聞こえた気がした。
2日がたち、私は病院の天井をぼーっと見つめている。
うちはマンションの2階にあり、すぐ近くに大きな木があったため私は大きな怪我はなく、かすり傷ですんだ。
母は私にとても優しかった。それでも私の顔を見ると泣きそうになることが多かった。
今になってみれば、私と母の間に大きな溝ができたのはこれが始まりで、そして私がしたことは、母の一生消えない心の傷になったんだと思う。。。