「別れよっか…」
「………………」
彼女の気持ちに気づいていた俺は、あえて返事をしない。
どんな返事をしたって、結果が変わることはないと、わかっていたから。
「ありがとね。今まで…」
「………………」
辛いのは彼女も一緒かもしれない。俺が笑顔で見送れば、それで済む話だ。
「………………」
ついに彼女も黙ってしまった。俯いていて…どんな表情をしているか分からない。
「ごめんな」
ようやく振り絞って出した言葉。予想以上にかすれていて、自分の声とは思えなかった。
「何で謝るの?」
「何もできなかったから。幸せにするって約束守れなかったから」
「それは………」
付き合い始めたころ、誰よりも幸せにすると誓った。
果たされることは、永久になかった。
「仕方ないじゃない。」
「そんなことねぇよ」
「いいわ。もう謝らないで。」
「そうか…」
未練も何も残したくないのだろう。彼女は、にらむように俺を見た。
俺は、なぜか優しく笑っていた。
「最後までずるいのね…」
「え?」
「聞いてないわ。謝るなんて。いっそのこと罵ってくれてかまわないのに。」
「好きだからだよ、まだ。お前のことが…」
「………!!」
予想外の言葉だったのか、驚きを隠せないまま、彼女は言い放った。
「断ち切るって言ったのはアンタでしょ!!さいてーっ!」
涙を流しながら去っていったあの人。好きって言う言葉を恨んだ。
冷たい冷たい雨が降る、真夜中の出来事だった。