青年の関心は頼んだ料理より店のカウンター席に座っている自分と同じメニューを注文した女性に向かった。
(間違いないよなぁ。今日のツアーの客だよなぁ。こういうのってツアーの参加者が全員揃った時に覚えられてたら微妙で気まずいなぁ)
青年は女性にあまり見られないよう携帯をいじることにした(本当は店に置いてある漫画を取って見たかった)
でも、ちらちら見てしまうのがこの男のまずいとこだ。女性は男にきづいた。
(何かしら、あの人。やだぁ、アタシに気があるのかしら)
月並みといえば月並みの反応かもしれない。だがしかし、この女も賢い方だとは言えない。自尊心が強いのだ。悪いことではないが。
こうなると女も止まらない。次第に男は自分に気があるのかもからあるに違いないと勝手に頭の中で解釈してしまう。女は嬉しくなる。想わせぶりな態度をとりたくなる。(それが彼に対する簡単な奉仕<ボランティア>だと高慢にも考え始めた)どうせ店にいる間の30分ぐらいだ、気分よくさせてやろうという気持ちだ。まったくヒトという動物は…。
男も女も互いに等間隔の時間で視線を送る(もっとも男は無意識だが)結局、いづれはこうなる。二人の視線がつながった。ドラマ的展開、ちょうど二人同時に料理が運ばれてくる。しかもメニューは同じ
(…まさかこの人と注文、一緒?)
女に突如羞恥心が芽生えた。これまでの行動と考えを彼女はそこはかとなく反省した。メニューが一緒だったことが一つのスイッチだったのだ。世間的にはここまで照れなくてもいいだろう。でも女は照れた。先に注文したのに女は自分が男の後に注文もしたと錯覚した。まるで自分が男に気があるようだと決めつけた。この女、どうも思ったより思い込みが激しい。
女は急いで料理を食べた。とにかくその場を去りたかった。ホントに急いだ(そういう、女性が急いで食事をお腹にかきいれる様の方が一般には恥ずかしいのに)。
女性は店を去った。青年も解放感に恵まれた。ゆっくりと味わって食事した。余裕をもって。この男、女性が同じツアーかもしれないことをすっかり忘れてしまう。時刻は7:07
食事を終え、青年は真っ直ぐ部屋に向かった。そしてドアを開けた。
続く