「この関数f(x)において、xが-√3から5まで変化す…………」教壇に立つ私は半数が床に伏せている生徒たちを見ながらすらすらと数学の授業をしている
『まったくどうしようもないな』とは口に出さず、生徒なみに回っていない頭で話を進めている
今年度から私立の華やかな校舎から公立の薄汚れた学校に赴任してきたのだ
『ついていなかったな』それが半年経って得た感想である
数学の教師だけあって私は神や仏などは信じてなかったが、娘に誘われて渋々ついていった神社で厄年の年だったことに気づいたのがよくなかったと内心に苦笑したが何も変わらないのは明らかだった
『ちゃんと祈るべきだったかな』そう思った瞬間、チャイムがなった
「はい、じゃあ今日はここまで。なにか質問がある人は数学準備室に来てください」この言葉を前の学校ではしっかりと聞いてわざわざ質問しにくる生徒も居たが、今の生徒じゃ有り得ない
なのに未だに言うのは無い希望に懸けているのだろうと自覚はしている
そんなことを考えながら、約3分かけて私は数学準備室に戻ってきた。
少し机を整理した後、一息つこうと『マイルドセブン』を片手に中庭に出ようと思い立った私はおもむろに腰をあげると、扉の前に一人の生徒が立っていた。
「山谷先生。」
そこにはこの学校の私が知るなかで唯一、ここに訪れる生徒、黒沢博詩が立っていた。
偏差値40のこの学校で一人だけずば抜けた成績を維持している、否、どこの学校においても秀才と呼ばれるべき知能を持っているだろう。
数日前に渡した大学レベルの問題の答えを聞きにきたのだ。
「あぁこのまえの問題だね」
「はい。一応確認のため解答をもらいにきました」
「印刷しておいたのがそこにあるからもっていきなさい。分からないところがあったら言いなさい」
「わかりました。では失礼します」
私は彼のために教師をしているといっても過言ではないだろう
ここでは彼以外誰も話を聞かない
だが私は、そもそも生徒は客なのだという考えだからあまり気にはしてない
楽しくないだけだ。