一回の表、東谷学園の攻撃。バッターは氷室。
彼はゆっくりと左バッターボックスに入った。
「プレイボール!」
試合直前の監督の言葉。
「いいか、この試合ではバントなどといったサインは一切出さない。だからこの試合では君達が思うようにやってくれ!」
(・・ふむ、「思うように」、か。)
(なら・・・)
相手の投手がワインドポジションから第一球を投げた。
(「コレ」だな!)
すると氷室はおもむろにバントを「差し出し」て・・・
コツッ!
そう小気味いい音をたてた打球は三塁線ギリギリを転がった。
守備もこれは予想外だったらしく、捕手が慌てて捕球した時にはもう氷室は一塁にたどり着いていた。
無死一塁。
続く伊達がきっちりと送って一死二塁。
そしてバッターは五十嵐。
(この場合は最低でも犠牲フライ、塁に出てキャプテンに繋げる・・・)
しかし。
「ストライク!」
「ボール!」
「ボール!」
「ストライク!」
「ボール!」
「ボール!フォア!」
五十嵐のフォアボールで
一死一塁二塁。
そして稲垣に打順が回って来た。
一球目。
外角低めに決まってストライク。
稲垣はこの球には反応しなかった
二球目。
高めに浮いたがギリギリストライク。
この球にも反応しない。
そして三球目。
内角低めのすっぽ抜けたカーブ。
稲垣はこの甘い球を見るや否やバットを思いきり振った。
打球はセンター方向に吸い込まれていき・・・