彼の顔を見ただけでアソコが熱り濡れてしまう。指定された待ち合わせ場所のコーヒーショップ。待ち合わせ時間に五分ほど遅れ、彼の向かいの席に座ったとたんに、彼は「逢いたかった?」と顔を覗き込むように囁く。ほぼ満席の店内を見回し、知り合いはいないか確認したあと、「逢いたかった」と答えた。
二日前の夏日の夜。
尋常ではない暑さに、眠れそうにもなく、主人は出張だし…。一杯飲めればなぁ。…最近オープンしたオール300円のバーに行ってみようか。と、思い立ち慌てて、夜の街へ飛び出した。一年前に流産してから引きこもりがちだった。自然に会話もなくなり、夫婦中もギクシャクしていた。今朝も体調の悪さを理由に、主人を見送らなかった。久しぶりに見る繁華街は、涼を求めるはしゃいだ声で溢れかえっていた。哀しみに浸り続けていた日々が、忘れられるような気がした。お目当てのバーは満席だった。ガッカリしながらも、遠い記憶を辿り、独身の頃、懇意にしていた店に足は向かっていた。目に見えない力に押されるように。いつもなら足を止める点滅した青信号も、駆け足で渡り切った。酔いが回った人波を抜け息を切らし、辿りついたのが[バードマン]カウンター8席の小さなバー。