【羽田盃発走!!】
『すっ、すげぇ〜!!』
『なんだ、どっちが勝つんだ〜!?』
−南関東の競馬におけるクラシック三冠の一つ目、羽田盃。
たくさんの観客が見つめる先には、砂を蹄で豪快に蹴り上げ走る、選ばれた馬と騎手達がいた。最後の直線、後続を完全に突き放し、叩きあっていたのは、栗毛と芦毛の異なった色をした2頭の馬だった。1頭は、騎手が往年の天皇賞優勝ジョッキーの駆る馬、そしてもう1頭は、あまり人気しなかった馬。しかし、この『人気しなかった馬』の激走が、単なる展開や偶然によるものでないことは、両馬の鞍上がよくわかっていた。
『やっぱり…こいつ、ただもんじゃなかった!!』
俺は、隣で競る馬に負けじと、相棒を追った。
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羽田盃発走直前。
今日のために、俺も久遠も、そしてハウルも、万全の体制を整えていた。そして、予定通り、この場に立つことができたのだ。
『ハウルは…2番人気だとさ。1番人気は、ここまで無傷で来たフリューゲルスに譲ったが、実績じゃ負けてないはずだ。まぁ、お前が乗るってことで、少し過剰な人気だけどな』
『何言ってんだ、俺の人気なんてほんのちょっとの効果だっての!!』
俺も久遠も、相当な自信を持って、ここに臨んでいた。1人気のフリューゲルスは、兄弟や近親にも活躍馬がいる良血で、3戦3勝な上、勝った着差が派手なものだった。その絶大なインパクトがこの人気に繋がっていると言える。しかし、それは俺とハウルにとって大きな敵ではないように思えた。
『後は、去年の優勝馬の弟、モノトーンくらいか。…乗り方は任せるよ』
久遠は「もう言うことはない」というように、関係者席に消えていった。この男、もう勝った気でいるんだ、絶対。久遠の頭は、勝った後のことしか考えていないだろう。
…そんな久遠を目の前には言えなかったのだが、実は俺にはパッと見て気になった馬がいた。