まったく人気していない、その白い馬は、若手の騎手を乗せ、ゆったり歩いていた。鞍上も意外と堂々としている。確か名前は…。
『はじめまして、清家渉(セイケ ワタル)とです。柚木騎手と一緒のレースに出られるなんて、光栄です』
彼のほうから挨拶してきた。…そんなにジロジロ見てたかなぁ。
『その馬は…』
『コイツですか?名前はアシュベルっていうんですけど…柚木さんの目にはどぉ見えます?』
『…いい馬だと思うよ。人気より、全然』
ニコニコしながら、彼が聞いてきたので、俺は思ったままに返した。すると彼は、嬉しそうにしながら言った。
『ですよね!そう思いますよね!!よかった〜僕だけじゃなくて』
『何が?』
『この勝負、柚木さんと競れる気がするんです。まぁ、僕次第なんですけどね』
『!?』
『負けないように、頑張りますから!』
そう言って、清家は去っていった。何と言うか、度胸のある奴だ。普通、あんなこと言いにくるか?しかも、心理戦をかけてきた様子でもなく、純粋に思ったことを言いにきた感じだった。稀に見る変わり者だ…レースはシビアな勝負だってのに、楽しそうだったし。
…静かに、発走の時が近づく。
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ガシャン!!
レースがスタートし、先頭に踊り出たのは、前年の勝馬の弟、逃げ馬モノトーン。1番人気フリューゲルスは好位追走。俺とハウルは後方待機していた。清家とアシュベルは…シンガリ(1番後ろ)か。
『先頭はモノトーン、リードは広がって6馬身はあるか?フリューゲルス、様子を伺っています、現在3番手の位置』
フリューゲルスも、いつもならジワジワと上がっていくんだろうが、今日はクラシック最初の一冠がかかった大レース。周りだって、同期を蹴散らしここまできた。そう簡単に、抜かせてくれまい。しかも、逃げているモノトーン、思った以上にスピードが出る馬だ。そして、脚色もいい。…こういう馬には、あまり離されるのもよくない。
『さぁ、ここでハウルが上がっていったぞ!!コーナーを回って、いよいよ直線勝負!!』