そこには男が一人いて、私と緩やかに会話を楽しんだ
この男は間違い無く私がかつて愛した男だった
それに気がつき内心戸惑いを感じた
でもあの店の様な温かさは感じなかった
どうも私はここからも飛び立つ時が来た様だ
少しだけ休んでから私はビルから真夜中の寂れた街へ歩み出た
ぽっかり開いたビルの入り口から視線を階上の事務所の窓へ移す
摺り硝子の向こうに蛍光灯の灯り
あの愛した男の仕事の灯りが漏れている
私はみるみるうち黒い鳥になり真っ直ぐに天空へ舞い上がる
あの光の塔を見下ろす遥か上空
宝石を撒き散らしたこの街を
私の愛したこの街を眺めながら
一陣の疾風の様に長い長い弧を描き
私は夜の鳥になって旋回する。眼下の宝石箱を愛でる様に巡り続ける