弟の「未言葉」1

mirai  2006-04-19投稿
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 あたしの1歳下の弟は、「自閉症」という知的障害をかかえている。

 うまく話せない、他人とコミュニケーションを取れない、感情を見せない。簡単に言えば、そんな障害だ。

 けれど、あたしの弟は比較的よく笑ったり怒ったりできるし、風呂やトイレなどに介護が必要な事以外は、ごく普通にあたし達家族と暮らせていた。

 ときたま、訳の分からない独り言を言うけれど。



 その日の朝、あたしは風邪を引いて会社を休む予定だった。

 弟は、いつもの時間に出掛けないあたしに怒りのメッセージを出す。

 それにあたしは苛立ちながら、「お姉ちゃんはね、風邪なのよ」と答えてあげた。

 「かぜなのよー」と、弟は自分に言い聞かせるように呟く。

 19歳の今こそ意味は理解できるけれども、小さかった頃はただのオウム返しでしか言葉は出なかった。それはあたしも、今でも覚えている。

 すると弟は、あたしに向かって叫んだ。

 「5月19日っ」

 その日が何なのか、あたしは分からなかった。

 きっと、何かのテレビの放送日か、今通ってる更生施設で何かあるんだろう。
 その類ならよく日にちを言う。

 けれど、本当は違う事を、今はまだ知らなかった。



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