あたしの1歳下の弟は、「自閉症」という知的障害をかかえている。
うまく話せない、他人とコミュニケーションを取れない、感情を見せない。簡単に言えば、そんな障害だ。
けれど、あたしの弟は比較的よく笑ったり怒ったりできるし、風呂やトイレなどに介護が必要な事以外は、ごく普通にあたし達家族と暮らせていた。
ときたま、訳の分からない独り言を言うけれど。
その日の朝、あたしは風邪を引いて会社を休む予定だった。
弟は、いつもの時間に出掛けないあたしに怒りのメッセージを出す。
それにあたしは苛立ちながら、「お姉ちゃんはね、風邪なのよ」と答えてあげた。
「かぜなのよー」と、弟は自分に言い聞かせるように呟く。
19歳の今こそ意味は理解できるけれども、小さかった頃はただのオウム返しでしか言葉は出なかった。それはあたしも、今でも覚えている。
すると弟は、あたしに向かって叫んだ。
「5月19日っ」
その日が何なのか、あたしは分からなかった。
きっと、何かのテレビの放送日か、今通ってる更生施設で何かあるんだろう。
その類ならよく日にちを言う。
けれど、本当は違う事を、今はまだ知らなかった。