クラスメイト達の中には、恐らくタツヤが聖人に刺されたと勘違いした者も居ただろうー。
時々鼻をすする音とー
啜り泣く声が聞こえたからー。
タツヤはまだ立てないでいたー。
いや‥立てないと言うより立たなかったんだー。
それはー
聖人にサバイバルナイフを突き付けたが、一瞬にしてかわされー
食らったボディへの一発のパンチで崩れ落ちた自分を恥じたからだろうー。
『チキショー!!』
タツヤは床を拳で数回叩いていたー。
聖人はー
そんなタツヤを冷めた目つきでジッと見下ろしていたー。
そしてー
ユカにこう言ったんだー。
『秋田谷。スケッチブックをあんなにしたのはオマエなんだろ?!』
コクンー‥。
ユカは素直に頷いたー。
それを見た聖人は、少しの沈黙の後に
こう言ったんだー。
『奈央に謝れ。』
“奈央ー”
こんななシチュエーションで初めて呼ばれたのがー
あたしにとって“少しの残念”だったー。
『‥‥‥。』
ユカは黙ってしまったー。
『何で黙ってる?!奈央だって、夏休み前のサイフ事件の時、オマエの胸ぐら掴んだ事について、
素直に謝っただろ?!』
聖人が言ったー。
何で知ってるの?!
サイフ事件の事は、クラス一のおしゃべりのサチヨが言いふらしたとは思うけどー
確かあの時、あたしがユカに謝った日は職員室に母が呼び出されて、担任の渋川、ユカ、あたしの4人しかいなかった筈なのにー。
きっとユカから聞いたんだねー。
ユカとの関係については、ただの幼馴染みだとー
聖人の口から直接聞いたから、心配はしていなかったー。
ただ、こんな細かい事まで知っていた聖人にー
正直びっくりしたー。
‥‥ヒ‥‥ィ‥。
ユカが泣いたー。
それは、あたしが初めて見たユカの涙だったー。
『‥‥奈央‥ごめ‥ん。あたし‥悔しかったんだ‥‥。
奈央が‥羨ましかったんだ‥。』
こんなに大きなユカがー
こんなに小さく見えたのはー
きっとこれが初めてだったー。