びちゃちゃ!
そんな不快な音を立てて赤黒い液体が、薄暗い路地裏の一角を朱に染める
そしてその液体が水溜まりのように広がっていくまで、それの持ち主の男は、は痛みに耐え、何とか立っていられたが、それも限界になったのだろう。自らの血溜まりの中に倒れ込む。
男はなんとか自分の脇腹に突き刺さっている包丁を刺した人物の姿を捉えようと虚ろな眼差しを辺りに向けるが、あるのはポイ捨てされた空き缶や、置き去りにされた、土埃を被っているバイクしかない。
しかし、いる!!
男にはそういえる確かな自信があった。
会社の上司達に連れられ、断ること等、彼の立場から見れば不可能だった。
そして、居酒屋を何軒か梯子し、帰る途中にそこを通り掛かったのだ。
確かに彼は酔っていた。だからその路地裏を見たときに不思議に目の前がグニャリと曲がる目眩があっても、ああ、自分は大分飲んだんだな、早く帰らないと、……その程度にしか思わなかった。
そして、酒を大量に摂取したのだから、この時に尿意を覚えたのも当然といえば当然だった。
だから彼はその路地裏の闇の中へと入っていったのだ。