彼とキスした日――
それは本当に夢のような出来事だった。
ずっと好きだった彼から名前で呼ばれ、
恋人にするような優しいキスを受けた。
彼が“間に合わせの恋人”ではなく、“本当の恋人”として想ってくれてるようで嬉しかった。
――でも…
――それは、本当に夢のようで
夢は瞬く間に終わりを告げた。
――夢の終わり
それは、辛く苦しい現実の始まりだった。
最初は、私に対する優しさが感じられなくなっただけだった。
それは、“冷たくなった”というのではなくて、
急に付き合う前の関係に戻ったような感じだった。
“彼に飽きられちゃったんだ…”
そう思うと、胸がちくりと痛んだ。
けれど、
仕方ないって、頭のどこかで納得している自分もいた。
可愛くもないし、
これといって気に入られるようなところもない。
こんな私を本気で好きになるわけないじゃないの。
――って、何度言い聞かせたことかわからない。
でも、
もしかしたらって
もしかしたら、
本気で好きになってくれるかもしれない
――って思ってた。
……なのに、
彼が距離を置き始めたことに気付いてしまった。
――それだけじゃない。
他の女の子に目移りして、彼の目に私は映っていなかった。
彼が女の子と楽しそうに話しているのを見ると、
胸が締め付けられるように苦しかった。
彼女たちに嫉妬もした。
いっそ、
“『彼女』は私だよ。”
って言えたら良かったのに。
でも、
そんな勇気なんてない…
言えても自分がすごく惨めになるだけだと思った。
私は欲張りだったのかな。
彼の彼女になれただけで満足しなければいけなかったのかな…
でも、
彼の気持ちまで求めちゃいけなかったの?
こんなので“付き合ってる”って言えるの?
付き合ってからの片思いがこんなに辛いなんて知らなかった…
こんなことなら、
ただ彼を見つめているだけのときの方が良かった。
“愛されて”付き合う
よりも
“愛して”付き合う
方が良い
なんていう人もいるけれど、私も今はそんな気持ち。
“好きでいるのに疲れちゃった…”
そう感じた時に、頭に浮かんだのは、
『谷澤くん』
のことだった…