「馬鹿だなぁ、油断するなんて」
くすくすと前橋が嘲笑いながら起き上がった。
その手には小刀の入っていた小さな木の鞘が握られていた。
「き、さま」
悪態をつこうと口を開こうとするが、痛みに声が続かない。
このままでは、ゆかり共々やられてしまう。自分はまだいい。殺されても、まだ仕方がないと思える。
ただ、ゆかりが、仲間が殺されてしまうのだけはなにがなんでも嫌だった。
(だったら――)
平田はむったりと笑み続けている前橋を睨み上げた。そのままゆらゆらと立ち上がり、舌を噛まないように落ちていた割り箸を噛んだそして、腕に突き刺さった小刀を掴み、力一杯引き抜いた。ぎぢっ、と骨がきしんで砕けた音がした。
気が狂いそうなほどの痛みに、手足が痙攣する。目の前がちかちかする。焼けた鉄杭を打ち込まれたかのように熱くて爛れた痛みを必死で堪え、動く腕で前橋の腹部にダーツのように投げ返した。
ずぶり、と痩せた脇腹に食い込む小刀。
「刀も、拾わないで、見物とは。いいご身分だった、な?油断、したな?」