いつもと同じ朝。この時間に毎日起きて、歯を磨き、スーツに着替え、人込みの中に溶け込んで行く。何故毎日毎日同じ事を繰り返すのか。生活の為?お金の為?ただ何となく、世間の目を気にして自由に生きれないだけ。
私はもうすぐ30後半に差し掛かる、何の取り柄もないサラリーマン。彼女もちろん嫁なんかいない。会社では上司に罵られ毎日ストレスとの戦い。けれどそれでも会社に毎日通う。この歳でフリーターになる勇気もないからだ。どんなに嫌になっても同じ朝がくる。毎日毎日同じ朝。そしていつもと変わらない生活だった。あの日までは。
朝の通勤時、よく見る女性。毎朝同じ電車の同じ位置にいる。年齢は20後半くらいで髪はセミロング。目がクリっとした可愛い顔立ちだ。彼女は私の事は知らないし、私も彼女の事は知らない。けどこの日は違った。彼女はいつも私が降りる一つ手前の駅で降りる。しかし今日は降りず、席についたまま。やがて私が降りようとすると彼女がいきなり手を掴んできた。
第一部 完