『どぉすっかったって、マ○バオーみたいにとんでもない特訓とかするわけにはいかないだろ』
『そういうなよ。俺だって真剣なんだ。このままだと、あのアシュベルにダービーも持ってかれちまう』
随分弱気な発言がでてくるなんて、久遠らしくない。たぶん、アシュベルがノーマークで構わないと思った、自分の相馬眼に、がっかりしているんだと思うが。俺は、少しフォローに入った。
『でも、たぶんダービーは上位混戦になるだろ。ハウルもその一角なんだから、今やれることをやってこうよ』
ごく当然のことだが、これが実は意外と難しい。
『そうだな…一角といえば、フリューゲルスの巻き返しはあるかわからんが、あの黒い逃げ馬…』
『モノトーンのことか。あれはもしかすると、兄以上の逸材だろうね』
モノトーンは、前年羽田盃を制した馬の全弟で、今年の羽田盃でも大逃げをうって3着に粘った、黒鹿毛の馬。最後はハウルとアシュベルの追い込みに屈したものの、それ以外はきっちりおさえて3着を確保した。相当のスピードとスタミナはもっているはず。おそらく距離が延びても平気なタイプで、短期間ながら力をつけてダービーに出てくれば、怖い存在となる。
『あとは、羽田盃に出てこなかったやつの中に、2頭いるな…』
『抽選もれになったスターオーシャンと、デビューが遅かったジャックナイフだね。確かにな…』
羽田盃には賞金が足りず、出走できなかったのが、超がつくほどの良血馬・スターオーシャン。兄弟、近親にも活躍馬が多く、母はハウルと同じように中央競馬のG?馬である。追い込み一手の馬で、ギアの上がり方が半端じゃない。レースぶりにインパクトが残るタイプだが、フリューゲルスよりむしろこっちのほうが「はまったら怖い」印象がある。
一方の、ジャックナイフ。デビューが遅く、羽田盃には間に合わなかったが、戦績は2戦2勝。キレ味は名前負けしているが、並んだらなかなか抜かせないスタミナと根性が身上の馬。この馬が羽田盃回避組では、巻き返し最右翼かもしれない。
『何にしても、楽しみじゃないか。並みいる強豪をおさえ、ハウル優勝!!ってね。頑張ろうや』
『そうだな、自分がやれること、信じてやってくしかないよな』
ふぅ〜と大きく息を吐き、久遠が言った。