『…マ○バオー的特訓、始めるか』
『…えぇっ!?なんで今の流れから、そぅなるんだよっっ』
このあと、もちろんそんな特訓が行われ「なかった」のは、説明するまでもない。しかし、実際感覚が狭いレース開催とは、調整だって容易ではないのである。なんせ、大舞台に万全の体調で臨めればいいが、相手は人でなく、けれども機械ではないのだ。
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−その頃のアシュベル陣営。
相変わらず、主戦、清家は落ち着いたものだった。自ら調教に跨がり、感触を確かめる。
『羽田盃より、確実に成長してる…』
愛馬の成長を、ひしひしと感じる。次もきっと、いいレースができる。清家はそれを掴んでいた。
『わくわくするな…』
唯一、二冠馬となる権利を持つ相棒とともに、二つ目の栄誉を勝ち取れるか。それは、次の東京ダービーが清家にとっての試金石であることを意味していた。
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−その頃のとある陣営。
『へぇ、久遠厩舎の馬に乗ってるのが、まさか柚木とはね…』
『お前にとっては、負けられない人間だろう?』
ガムを噛みながら、若く見える調教師が言った。もう一人、相手の男も、若い騎手である。
『あぁ、これまた乗っている馬もな。モスキートミルクの初仔とは…。ますます因縁深い』
柚木とハウルに、並々ならぬ執念をもつ、この若い騎手は、ある馬に乗るために呼ばれた、中央からの刺客である。
『わざわざ南関屈指のベテランを降ろして乗り替わりなんだ、よろしく頼むぞシュウ…』
『造作もないコトさ』
虎視眈々と優勝を狙う、若い調教師と、彼にシュウと呼ばれた中央の騎手…。この時、東京ダービーが、例年以上に激しい戦いになることは、彼ら2人以外にまだ知らなかったかもしれない。
…そしてついに、決戦の日を迎えることになる。
決戦の日は、雲一つない晴天。…好勝負、必至。