「ねぇ…悠(ユウ)ちゃん…抱きしめて?」
「………どした?」
「いぃから……」
いきなり、彼女の栗原 成美からの大胆な要望が飛んできた。俺、斎木 悠は、困惑の顔を浮かべる。
「わかった」
彼女のこんなお願いを聞かない男はいない。俺は、成美を後ろから優しく抱きしめた。
「………ぁりがと」
聞こえるか聞こえないくらいの声で、成美は小さく礼を言った。
俺は、黙ったまま彼女の体温を上げていった。
「泣きそう…?」
成美は小さくうなずいた。言葉が出せないのだろうか…
「いぃよ…泣いて…誰もいないから…」
成美は小さくうなずいたあと、声を殺しながら泣いていた。だけど、華奢な肩はふるえていて、切なさがにじみ出ていた。
「何があった…?……………言いたくないか?」
成美がしばらく躊躇った後に、小さなこえで「ぅん」と言ったので、俺は詮索するのをやめた。
だけど、いつも頑張っている君を見ていれば、何となくだけど、理由はわかるんだ。
人一倍頑張っている君は、失敗したり、うまく行かなかったりすると、その分悲しくなったり、悔しかったりするんだよね?
今は、理由なんて良いから、涙を流して、そして元気を出して。
できる男でいるつもりだよ。君の涙を受け入れるね。
「なぁ…成美。次は俺と一緒に頑張ってみるか…な?」
成美がまた小さくうなずいた。今の俺にはそれで良い。
おまえの笑顔が見れるまで、側にいるからさ。