「健児クン、今日もお疲れ様。明日もよろしくね。」
仕事が終わり、先生逹が笑顔で彼に挨拶をしていく。
まるで、別れを惜しむかのように。
「お疲れ様っす!また明日!」
そしてサービススマイル。
そりゃ可愛いわな。
「早く出な。鍵閉めるから。」
「はーい。てか、冷たくないっすか、カルナさん。」
「うん。私冷たい人間なの。」
「俺は好きっすよ。」
「それはどうもありがとうございます。」
私に媚び売ろうとする方がバカよ。
そこらへんのおばさんと一緒にしないで。
「本気っすもん!」
ここでも子供のように地団駄を踏む。
「分かった。早く帰んな。朝は授業あるんでしょ?」
笑って誤魔化せばいいのよ、ガキは。
「好きっすよ。ハルナさん。」
「あれ?それ私の本名だわ。」
「ちょっと来て下さい。」
突然私の手を掴むと、校舎の裏まで連れて行かれた。
「これ、今日買って来たんす。」
彼は横たわった小さな薔薇の花束を拾った。
「奈々子先生に聞いたんす。ハルナさんが薔薇好きだって。」
その後の事はあまり覚えていない。
って言ったら言い訳になるけど…
「何言ってんの!そんなの理事長にやってあげな!子供がこんなの買うんじゃないの!薔薇は100本ないと意味ないんだよ。」
そう言って1人で帰った気がする。
久しぶりにあんなことされて、久しぶりに焦った。
全部冗談だったかもしれないのに。
いや、絶対全部冗談だ。
次の日、彼はいつも通り働いていた。