朝一番に病院に行ったが結局京介の予想通り優は記憶喪失だった。
医者からは治すための治療や薬は無いためしばらく様子を見るように、とだけ言われた。
「なぁ宗太、どうするこいつ?家も分かんねぇしどうしようもないよな?」
相変わらず京介の話を聞かない宗太は記憶喪失少女の観察に夢中だ。一方優は初めて見る街に興味津々でキョロキョロとしている。
「京介〜腹へったぁ、肉食いたい。焼き肉」
「昼間っから焼き肉はきついって」
宗太の主食は肉とスナック菓子、滅多に野菜なんてたべない。
「んじゃ多数決ね。優〜焼き肉食べる?焼き肉が良いよな?」
5、6歩先を歩いていた優は振り返ると駆け寄ってきた。
「焼き肉〜?宗ちゃんは?」
「俺は当然焼き肉派」
「クソ野郎はどうするの?」
優は京介を見上げた。
「ん?俺か?何でも良いけど肉はちょっとな…ていうか今『クソ野郎』って言わなかった?」
お前が仕組んだろ?絶対お前だろ?と言わんばかりに京介は宗太を睨んだ。
だが宗太はおもいっきり気づかないフリをしている。
「優、俺の名前は京介だ。なんなら京ちゃんって呼んでもいい。間違っても『クソ野郎』は無しだ」
優は首を傾げた。
「クソ野郎は京ちゃん?京ちゃんはクソ野郎?」
京介は優の解釈にイラっとしたが優の無邪気な顔に意気消沈、その後は宗太が無理やり優を説得し結局焼き肉を食べることになった。