ファミリーレストランに入った二人。フリーペーパーのアルバイト求人誌を読む深月の目の前で、深花は嬉しそうにショートケーキを頬張っていた。
「時給850円…ちょっと安いな。」
一人でぶつぶつ言いながら、次々とページをめくっていく深月。そんな深月を、深花は不思議そうな表情で見つめていた。
「月ちゃん。」
「ん?」
深月は、深花を見た。
「オレンジジュース取ってくる。」
「一人でできる?」
「うん。」
そう言うと深花は、グラスを持ってドリンクバーに向かった。深月は再び求人誌に目をやったが、パッと深花の食べかけのケーキに視線がいった。
「あたしも何か頼もうかな…。」テーブルに立て掛けてあったメニュー表を手に取り、その時ちょうど通り過ぎようとしたウエイターを呼び止めた。
「あ、すいません。」
ウエイターは振り返ると、深月のテーブルへとやって来た。
「あのぉ、注文なんですけど、えっと…。」
ウエイターを呼び止めたはいいが、注文が決まらない深月は、しばらくしてウエイターの視線をチクチクと感じ、少し慌てた。
「えっと…、今時期アイスは寒いし、夕飯前にケーキはカロリー高いし、あんみつって気分でもないしなぁ…。」
そうメニューと睨めっこをしていると、ウエイターが口を開いた。
「あの…。」
「え?」
深月は顔を上げた。
「早くしてくれません?」
ウエイターは、半ばイライラした様子だった。そんなウエイターの態度に、深月もムッとした。
「ちょっと!客の注文を待つのも、あなたの仕事でしょ!」
深月の言葉に、ウエイターは開いて持っていたハンディを閉じると、すかさず反撃した。
「ご注文が決まってから呼んで頂けませんでしょうか。僕はお客様だけのウエイターではありませんから。」
その丁寧な言い回しが、反って深月の気に障った。
「なんだってー!?」
そのとき、
「あ、映太先生!」
ドリンクバーから戻ってきた深花が、ウエイターを見るなり叫んだ。
「…せんせい?」
深月がきょとんとしていると、
「あれ、深花ちゃん。」
先程とは打って変わって、ウエイターは、深花に笑顔を見せた。何が何だかわからない深月に、深花は言った。
「映太先生、保育園で体操を教えてくれてるんだよ。」