†国の異変と…
「ディズ王子!ディズ王子はどこじゃ!?」
フロリス城の廊下を慌ただしく走っているのは、城の大臣、アルフだ。
姿形はウサギのようだが、青い毛並みと、眼鏡と長いヒゲがウサギのイメージを消してしまっている。
「ディズ王子ー!」
城中を走り周って、ようやく休んだ場所は、城の中心にある広場だ。
真ん中にある噴水の横のベンチに腰を下ろした時だった。
アルフの目の前に、漆黒の霧が漂いだした。かと思うと、その霧からは、女が姿を現した。
「あら、大臣アルフ。ご機嫌よう。どうかなさったのですか?」
女は、霧と同じ色の漆黒のローブドレスに身を包み、アルフを見て小首を傾げていた。
「フィレンか。」
フィレン。彼女は、このフロリス城に使える魔女なのだ。
「ディズ王子を知らないかね?今日は、隣のライラミン国の姫が来られる。サミットがあるのじゃよ。」
フィレンは、少し考えてから微笑んだ。
「でしたら王子捜し、この私に任せていただけないでしょうか?大臣アルフ?」
アルフは、目を見開いた。
「何?フィレン、お前は王子の居所が分かるというのか?」 「いいえ。大臣。私には娘がいますわ。あの子に任せるのです。」
「娘…イウ゛か。」
「ええ。」
そう言うと、フィレンはにっこりと笑った。
「いくら王子といえども、心は子供。子供には子供がその心の氷を溶かすことができるのですよ。」
「ふぁーあ。」
城に吹き付ける風は今、ディズの髪を少しボサボサにしてどこかに行った。
城の屋上。こんなに眺めのいい場所は他にないはずだ。
今日のサミットの事なんて、ここにいれば忘れられると思えるくらいだ。
しかし、そんな気分もそこまでだった。