闇から現れたのは、全身黒ずくめの少年だった。
黒いコート、黒いズボン、黒い靴。男にしては長めの、肩くらいの長さの髪の毛も黒かった。ただ、腰に二重に巻いた太いベルトは茶色で、ベルトにはちょうどリレーのバトンを二つ繋げた分くらいの太さと長さの銀色のスティックがささっている。
十五、六歳くらいだろうか。年の割には細身で背も低い。顔は白く整っているが、目鼻立ちの感じが、どこか柔和な印象を受ける。
しかし何より裕一が衝撃を受けたのは、その少年の目の中の瞳の色だった。
天窓から差す光に輝くそれは、鮮やかな金色をしていたのである。
少年の方も、目を見張って固まっている裕一を見て、ぽかんと口を開けた。
「ありゃ?こんな所に人?珍しいこともあるもんだねぇ」
緊張感のないのんびりした声。意外にも声変わりした、男の低い声だった。裕一は少年の声で、はっと我に帰る。
(……なんなんだ、こいつは?)
わずか三歩ほどしか離れていない所に立っている少年は、明らかに浮世離れした風貌をしているが、夢や幻の類ではなかった。それは、目の前に普通に裕一の知り合いが立っているのと、同じような感覚で少年を見ることができたからだ。
しかし、こいつはどう考えても変だ。どこかの学校の演劇部の生徒だろうか?役の格好をして劇の練習でもしていたというのか。
(じゃあこの瞳もカラコン?ずいぶん派手だけど……)
「あのぉー、もしもし?」
黙ったまま突っ立っている裕一の顔色を、うかがうようにして少年は言った。裕一はもう驚きから立ち直っていたので、単純に不信感を露にした顔で少年を見る。
「何?」
「何って…。つまんない人だなぁ。もっとこう、さぁ。ボクの姿見てびっくりー、とか、ないわけ?」
「もうさっきびっくりしたけど」
「え、あれが!?君ちょっと目ぇ大きくくしただけじゃん!リアクション薄〜……」
はぁぁと脱力したように肩を落とされ、裕一はますます眉間にしわを寄せた。何で俺ががっかりされなきゃならないんだ……。
「ま、いいや。それよりキミ、こんな所で何してるの?ここは立入禁止でしょ?」
明らかに矛盾した質問。裕一はこの風変わりな少年につき合うのが面倒になってきた。
「暇潰しで来ただけだけど。お前こそ何で立入禁止の場所にいるんだよ?」
「だってここ、ボクの担当だもん。ボクが管理しなきゃダメでしょ」