バージンロードを歩きたい。大好きな人と、いつか二人で。
そんなことを考えるようになったのは一体いつからだろう?
好きな人が出来たら、そして相手も自分のことを想ってくれていたら…、つまりお互いがお互いを愛し合っていたら、結婚するのは当たり前だと誰もが思うだろう。私もそう思っていた。そう、割と最近まで…。それだけ簡単な事だと思っていたし、自分は普通の家庭に生まれ育ったと思っていたからだ。自分は普通だとずっと思っていた。
そうではないらしいと思い始めたのは、私に恋人が出来て付き合いがそろそろ一年を越すころだった。恋人から「結婚してほしい」と、プロポーズされたのだ。不器用で、口ベタな恋人からの、精一杯の私への愛情表現。
ドキドキしたし、涙が出そうだったし…頭が真っ白になったけれど、今まで自分が受けた言葉の中のどれよりも嬉しかった。このまま時間が止まってほしい、そう思った。
でも私には、彼に話していないことがあった…いつ話をしようかと正直迷っていた。私の…家族のこと…。
私はごく平凡な家に育った。父と、母と、姉が2人の5人家族。姉はそれぞれが嫁いで、家庭を築いていた。絵に描いたような平凡な家族。その関係が壊れたのは7年前の事だった。
「お姉ちゃんの様子がおかしい」…その連絡は私が初めて持った携帯に入った。何の事だかわからなかった。おかしいってどういう事なのか。
そして病名が次の連絡で伝えられた。
「お姉ちゃんね、統合失調症なんだって」
…? トウゴウシッチョウショウ??なんだソレ?
ワケがわからなかった。
わからないなりに、調べて解ったことがあった… 統合失調症とは、精神病だった。原因もまだわかっていない。脳の中で出なければいけない物質がキチンと出ないことによって起こる病気らしい。そして今の所…完治する方法は見つかっていない。
見つかっていない…
この事を、私はまだ彼に話していなかった。話すことで…彼が離れていくのが怖かったから。
どうしたらいいかわからなかった。でも…隠し続けるなんて無理だ。この先できっと、彼にわかってしまう時が必ずやってくる。私がしなくてはならい事は、自分の言葉で姉の事を話すことだ。
次の日、私は彼にすべて話した。姉の病気の事を、すべて…。
彼は黙って聞いてくれた。そして…そして。
今日私は結婚します。