―――ヴェノムに入ったんだもんね―――\r
僅かな溜め息を含んだアキの綺麗な声がカインに届いた。
カインはアキ達、反乱軍『ムラクモ』に協力している……それは事実だが、『ヴェノム』の一員であるカインにとって、それは依頼上の協力であり、依頼上の仲間でしかないのだ。
「おいっ!アキ……あのヴェノム野郎は起きてやがるかっ?」
けたたましく大地を践み歩く轟音と共に、ゆうに190センチはあるだろう大男が半開きの鉄製のドアを開け……いや、弾き飛ばし室内に入ってきた。
男はカインが座るベッドまでドカドカと足を運ぶと、カインを睨みつけた。
短く刈り込んだ茶髪に、顎から伸びる不精髭……作り込まれた体は筋肉が醸し出す鉄の鎧の様にも見える。男は威厳ある顔立ちでカインを睨みつけながら、こう口を開いた。
「てめぇ、体は大丈夫なのか?」
言い終わった後、男は両の腕を組みながら、カインを隅から隅まで見回す様に視線を回した。
「あんたに心配してもらう筋合いはない」
カインは男などまるで眼中にない……そう言わんばかりに男から視線を背けると、ベッドからのそり……とはい出た。
「カイン……大丈夫?」
立ち上がるカインにアキは手を差し延べる。
しかしカインは、必要ない……そう言う代わりに片手の掌をアキに向け、自身を支えようとするアキを制止した。
「大丈夫だ……動ける、心配ない」
カインは言いながら、床に放置されたままであった黒剣を腰につけた鞘にしまった。
「こ……の、てめぇ!俺やアキが心配してやってんのに、その態度は何だっ」
声を荒げる男に目を向けたカインは、淡々と冷静にこう切り返した。
「別に、あんたにもアキにも心配してくれと頼んだ覚えはない」
「こっ……の、野郎」
カインの澄ました発言に、額の血管を剥き出しにし、右手を強く握りしめて怒りをあらわにする巨漢の男。
それを見たアキは慌てて男に声をかけた。
「やめて、グラン!」
アキの制止にグランは、ゆっくりと握っていた右手を解いた。
そして、舌打ちと共にカインを睨みつけると、こう怒鳴った。
「作戦開始は午後からだ、遅れんなよ!」
「分かった」
冷淡に頷くカインの顔を睨みつけるグランは、こうつけ加えた。
「俺はまだ、てめぇの事を信じてねぇ」