甘いワナ?

夢月  2008-02-24投稿
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――谷澤くんのあの告白、あの約束は、本気だったんだろうか…


あれ以来、一度も声をかけてくることもなかったし、目を合わせることもなかった。


“彼の質(たち)の悪い冗談だったのかも”


そんな思いが頭に浮かんだ。


あの言葉だって、彼にとっては挨拶代わりみたいなもので、
誰にでも気軽に言えるものだったに違いない。


本気になりかけた自分がバカみたいで、恥ずかしかった。



けれど、
約束の日の前日、唐突に彼が話し掛けてきた。


時間は放課後。

ホームルームが終わってまだ間もなくて…

教室には少なからず人がいた。


そんな中、谷澤くんが私に声をかけてきた。


注目を集めたのは言うまでもない。


みんなの顔には、一様に不思議そうな表情が浮かんでいた。


その中に弘人くんがいなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。



谷澤くんの話は極めて短かった。

――それを『話』と言って良ければ、だけれど。


彼は、明日の待ち合わせ場所と時間を言っただけで…
私の同意の言葉さえ待たずに言ってしまった。


もちろん、同意なんてするつもりはない。


“こんな冗談やめて欲しい”
って言いたかっただけなのに。


彼は、それすらも言わせてくれなかった。



一人残された私は、みんなの好奇心に満ちた瞳に晒(さら)された。


一部には嫉妬の色を浮かべるものもあった。



「栗原さんって、大人しそうにしていて、案外遊んでるんだね。」


思いがけず耳に入ってきた言葉――


怒りと恥ずかしさで、思わず涙が出た。


――そんな中、私を助けてくれたのは、


パンッパンッ!!――

と威勢の良い柏手を叩きながら、

「 はいはい。
 みんな邪魔〜。
 掃除するから出てね〜 。」


という雰囲気を一転させるような明るい声の持ち主で――


不満そうだった男子を有無を言わせず教室から追い出し、


「 はい、そこ!
  あんたは掃除当番でし ょうが。
  どさくさに紛れて逃げ ようとしないの。」

なんても言える、さばけた感じ。


それでいて、魅力的な笑顔で、男女別け隔てなく愛された。


――そんな女性。


私に勝ち目なんて最初からなかった。


彼女の名前は、

『藤本綾乃』さん。


――彼が片思いしている相手だった。



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