私の体の何処にこんなに水分があったのだろう
一日に摂る水分よりも遥かに大量の涙が溢れ出す
あの人から届いた最初で最後の手紙
アドレスはいつしか意味の無いものになっていた
繋がらない電話と届かないメール
『今カナダにいる。連絡しないでごめん。もう戻らないと思う。また何処かで会おう。』
今までの沢山の思い出とさ程遠いあっけい文面
悲しい程弱々しい筆圧
せめて住所さえ残してくれたら希望は捨てずにいられたのに
封筒の裏には見慣れたあの人の名前だけ
『また何処かで』
会えるはずもない
何処で会えるというのか
戻らないのならば私が会いに行く事しか出来ない
でも何処にいるかも分からない
分かっているのは遠くにいるという事だけ
捜索願を出さなければ会えるはずもない
どうして何も言わずに私を残していったの
何を考えているの
愛していたのにすぐにでも会いたいのに
あの人の止まった携帯に何度も電話をする
繋がるはずもないのに
聞こえるのは悲し過ぎるアナウンスだけなのに
私はいつまでこうしてあの人のアドレスを消せずにいるのだろう
奇跡でも起きて何処かで再開出来たら
その時に渡そう
私の中に残されたほんの一握りの希望に賭けてあの人に手紙を書いた
こんな紙切れに収まり切れない程の愛の言葉を
今でも忘れない大好きなあの人を想いひたすら書き続けた
涙が止まらない
会えないから悲しくて大好きだから切なくて残されたから苦しくて遠過ぎるからまた会いたくて
私は何をやっているのだろう
この手紙はあの人の手に渡る事はあるのだろうか
ふいに現実に戻されて虚しくなる
忘れられない
書かれた愛の言葉が頬から落ちる涙で滲む
情けなくて沢山の溢れ出す文字を消すように手紙を丸めた
掌に握り締められた薄っぺらい紙切れが孤独を大きくする
憎みはしない咎めたりもしない
ただこんなにもあの人を愛している事が悔しくて唇を強く噛み締めて額を力一杯机に押し付けた
一体どれ程の涙を流し続ければあの人の記憶が私の中から消えるのだろう
あの人は今
こんなにも寂しくて傷付いた私を忘れて何処かで笑っているのだろうか