この頃になると、人類の平均寿命はその遺伝的限界に迫る一二0歳の域に達していた。
又、再生医療の進歩のお陰で、実質健康寿命もほぼ前者と等しくなっていた。
成人の概念が三0歳にまで引き上げられ、それに応じて教育期間も延長された。
各宙邦はそれぞれ市民を囲い込み、高い教育や福祉を与え、充分な政治的権利と経済的繁栄を保証した。
反面、彼等には国家への忠誠や社会への貢献を義務付けた。
その最たる物が兵役だった。
又、各宙邦は彼等を様々な手段で把握・管理しようと試み、特に健康状態と学習程度に対しては異常な迄の努力が払われた。
こうして国家に強く結び付けられた市民―星民が育成されたのである。
各宙邦がここまでヒトにこだわったのは何故か?
彼等は政治的には中央域文明圏と対立していたが、思想的には同じ文明保守主義を奉じていたからだ。
本来なら一般労働は戦争を含めてロボットにやらせた方が良い。
高度な頭脳労働ならば人工知能に任せた方が良い。
だが、その両方共に地球時代末期のテクノ=クライシスでいかに恐ろしい結果を引き起こすかが証明されていたのだ。
高度過ぎる人工知能を搭載したマシンは、何時しか《自我》を持ち、人類に敵対する。
逆に高度な人工知能が無くても、一部のハッカー達の手によって乗っ取られたマシンの暴走により、深刻な社会問題が発生していたのだ。
詰まり、機械任せが行き過ぎると人類文明自体が崩壊する―その事を既に人類は学習していたのだった。
だから、出来るだけヒトの頭脳と肉体に頼るしかない―機械や人工知能は飽くまでも補助的手段に留めるべき―技術的制約ではなく、安全面から人類はこの方面では実に禁欲的姿勢を保っていたのだった。
勿論、奴隷制やそれを目的とした遺伝子・生物学的改造等は人道的観点からしても厳しく禁じられていた。
それを強行した勢力は、宗教界の手の届く限り徹底的に叩き潰されていた。
だから、戦力や国力を上げる為にはヒトを育てるしか無かったのだ。
各宙邦は更に、大々的な移民受け入れに狂奔したが、やがてその流れも先細りして行った。
仕方なく各宙邦は人的資源の再生産―詰まり子供の数を増やそうと試みた。
結婚と出産を奨励、もしくは強制したのである。