第二夜 採用試験の日は
。
「そういえば、衣茶良さん」
僕は樋本に聞く。
「試験って、何があるんですか?」
「んー?……」
樋本は呑気な返事をした。
はぐらかされたかと思ったけど、ただ寝ているだけらしい。樋本の上半身が、呼吸に合わせて上下する。間もなく、微かにいびきをかき始めた。
僕は風呂に入ってから眠る事にした。
風呂から上がると、樋本はソファに横になっていた。
僕は風邪を引かないようにと布団を掛けてやり、自分の部屋へ移った。
ガタガタと、風が窓を揺らし、雨が降り出す、二週間後。
今日は樋本の採用試験の日だ。
天気はやっぱり台風…というか、嵐だった。凄まじい風と雨が降る。最悪な日。
そんな日でも、試験はやるなんて、とんでもない企業だ。
ま、文句は言えない。
「衣茶良さん、送り迎えしなくて本当に平気ですか?」
衣茶良はシャツのボタンを閉めながら、
「うん。平気っ。俺の事はいいから」
と笑った。
「でも…」
僕はやっぱり心配だった。こんなに大荒れの日に傘一本なんて…。
「…平気だって!俺も仕事しないと、君も大変だろう?」
樋本は尚も笑い飛ばす。これには僕も折れた。
「……わ、分かりました。じゃ、気をつけてくださいね!」
樋本は玄関を出る前から傘を差し、
「行ってきます!」
と愛嬌のある笑顔を僕に残して、試験場へ向かった。夕方五時。
その夜、僕は嵐にそっぽを向いて一人淋しく夕飯をたべた。樋本はまだ帰って来ない。
僕は何だか凄く不安になった。
外はかなりの強風だ。風に煽られて飛んできた物体に衝突をしたら一たまりもない。
……−。
「…?」
サイレンの音がする。警察か、救急車か、はたまた消防車か。
…ウー…カンカン…。
そのサイレンの音が消防車だと気付いた時、僕はドキリとした。
→To Be Continued