第三夜 ファイヤーダンサー
まさか、と思った時には部屋を飛び出していた。
消防車のサイレンの音はかなり近付いている。
この辺で、火事が起きた事なんて一度としてなかった。なのに、どうして?
樋本は大丈夫だろうか。
火事の起きた場所は、僕のアパートから十分も離れていない。
炎は盛大に両腕を広げて一軒の住宅を襲っている。朱く光り、神々しい程に燃えている。
その雨粒さえも一瞬で蒸気と化してしまう荒々しさは、嵐にも動じることはない。
僕はそれをただ呆気にとられて見ていた。
人の造った物は、自然の力には絶対に勝つ事は出来ないのだろうか?
いや、これは自然の力じゃない。
誰かが、人工的にやったんだ。
僕は何故か走りだした。犯人がまだうろついているかもしれない。まだ、遠くへは逃げていない筈だ。
…待て。
もしかすると、この傍観者の中に紛れていると考えたら?
気付いたらまた走っていた。
大粒の、小石をぶつけられている気分になる雨なんて知るもんか。
全身に鉛の鎧をまとっている気分になる風なんか抗えるだけ抗える。
公園の樹木がしなって悲鳴を上げている。
僕のアパートの駐車場に駆け込む。
僕の車を捜したら直ぐさま乗り込んでエンジンをかける。
駅に向かうんだ。きっと樋本は困っている。傘はボロボロ、外は大荒れ。きっと、僕の迎えを期待している。
火事の事なんて二の次。今は樋本が心配だ。
→To be continued