第四夜 樋本がいない駅
「衣茶良さんっ!」
僕は叫びながら樋本を探した。
電車が停まっていたとしても、樋本はこの駅に必ず来ると言っていた。この駅にしかないドーナツが美味いらしい。
僕はドーナツ屋に駆け込み、
「ここに茶髪のライオンヘアのスーツを着た男は来ましたか?」
とぜぇはぁしながら聞いた。
店員はずぶ濡れの僕を見て嫌な顔をした。店が汚れると言いたいのだろう。
でも今の僕には知ったことか。
「来ましたか!?」
苛々して怒鳴った。店員は僕を見るだけで何も言おうとしないからだ。悪いのは僕じゃない。
「……いえ」
店員は小さく言った。
僕は店を出た。
「衣茶良さん!」
駅のホームからキヨスクまで隈なく捜したが、残念ながら樋本の姿はなかった。
諦めて帰ろうと、車に戻る途中、こちらに向かってくる人影が見えた。
「…衣茶良さん!?」
僕は人影に向かって走った。
すると人影は凄まじい金属音を伴い、僕に向かって飛んで来た。
人影は、見間違いだった。
人影は、長い鉄板だった。
鉄板は僕に激しく衝突し、僕は道路に弾き飛ばされた。
頭を打たなかったのが幸いして、フラフラしながらも立つ事は出来た。
「…あっ」
腕がない。
左肘から下が見事に切断されている。
鉄板に血が付いていたから、多分衝突したついでに持って行かれたらしい。
痛みはなかったけど、意識が遠退き、僕は道路の真ん中で倒れてしまった。
→To Be Continued