あの日あの時?

奈々子  2008-02-28投稿
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入学してからのひと月は、あっという間に過ぎた。ゴールデンウィークが明けて大学に行くと、圭子と浩介が立ち話をしていた。2人はお互いをファーストネームで呼び合うようになっていた。

「あ、沢田さん。さっき直也が探してたんだけど。」と浩介に言われ、それだけで私は動揺した。
「え?なんだろう…。」「多分伴奏者のお願いだと思うよ。」

伴奏者のお願い?伴奏者というのは、試験で楽器を弾く時に必要なピアノ伴奏を弾く人間のことだ。直也のようなチェロ専攻の学生は、大抵ピアノ伴奏がいないと試験の時に困る。クラリネット科の浩介も同様だ。

「俺は圭子に頼んだから。」浩介は圭子の肩を軽くたたいて言った。
「あ、そうなんだ。圭子伴奏するんだ。」
「うん。うまくできるか分かんないけど、興味あるし。」
「すごいじゃん!頑張ってね!」私はそう言いながら、さっき浩介が言った直也の話が気になって仕方なかった。

「ねぇ、北村君が探してたって、どこに行けばいいの?」
「多分、練習室にいるよ。地下かな、行ってみてやってよ。」

ひとりで行くのか?私が?そんな緊張すること出来ない!でも探してるんだから行かなきゃ。あぁ4人で話したことはいっぱいあるけど、考えてみればふたりきりは初めてかも……などと思いながら地下に降りると、練習室のための個室があった。廊下に面して並んでいる部屋のドアには目の高さにハガキ程度の大きさの小窓があり、室内が見えるようになっている。
端から順番に見て行くと、3つ目の部屋に直也がいた。チェロを弾いている。バッハかな。ドア越しだからはっきりとはわからないが、きれいに響く柔らかい音色。しばらく見つめていると、直也が気がついた。

「あ、来てくれたんだ。」ドアを開けてそう言った。
「うん、浩介君に言われたの。今のバッハだよね。」
「あぁそうそう。沢田さんはチェロの曲は聞いたりする?」「時々ね。バイオリンより好きかも。」
「へぇ、嬉しいこと言ってくれるなぁ。ところでさぁ、今度の試験の伴奏頼めないかな。」
「…私経験ないよ。うまくできるか分かんないよ。」
「大丈夫だよ。圭子ちゃんが大丈夫って言ってたし。」

圭子のこと圭子ちゃんって呼んでる。

「じゃあ、挑戦しようかな。」
「やった!サンキュ!」
嬉しいのと不安とドキドキと…。新しい日々が始まりそうだ。

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