太陽の涙

 2008-03-02投稿
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ミーン、ミーン…。
蝉は鳴く。
鳴いて、鳴いて、その後は死んじゃうなんて悲しすぎる。
なのに、そんな夏は不思議と嫌いじゃない。
夏の朝の匂い。あたしが好きな匂いだ。
「はーぁ。遅いなぁ〜。」
木陰で頬杖をつきながらあの人を待つ。
「あ、来た!」
向こうで手を振っている。
「ちとせ〜!こっち来て〜!」
しかたないから走って行く。
「どしたの翔助?」
「ん、プレゼント。誕生日、八月だったから。」
「でもまだまだだよ?最後の方だし。」
翔助は笑った。
「時代の最先端を進んでるの!俺は!」
「えー!?でも、ありがとう翔助。」
「どーいたしまして、ちとせちゃん!」
その後少し話して翔助は、早く帰らないといけないらしく、帰っていった。
誕生日までの二週間、あたしはぎっしりのスケジュールや家の手伝いで忙しくて翔助に会うヒマさえなかった。
「久々にメールしてみようかな?」
元気?それだけを、ただ送信した。
だけど、返事は来なかった。
翔助も忙しいんだろう、と思っていた。
そして夏休みが終わり、始業式でのことだった。
「皆さん、北波翔助君が…、亡くなりました。夏休みの間、ずっと病院にいたそうです。葬儀は…」
え?
嘘だと思った。元気だったのに。
プレゼントくれたじゃん。
でも嘘でもなく、ちょっとしたびっくりでもなく、本当のことのようだ。先生も泣いている。なんて言ってるか聞き取れないくらいに泣いている。
九月にはいりたての今日は、夏の太陽が泣いていた。
泣くことに夢中で、季節の交代を忘れてたのかな?
ミーン、ミーン…。
蝉も鳴いている。
お前達も、泣いているの?
大好きな人がいなくなって泣いているの?それとも、もうすぐ別の世界に行ってしまうから、この世界に別れを叫んでいるの?
あぁ。夏が終わっちゃった。
どうして気付けなかったんだろう。
さよなら、翔助。
ごめんね、翔助。
たくさんの想いであふれた。
あたしの頬を涙がつたった。
いつの間にか、蝉の声は止んでいた。



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