タイトルのない本

シノ  2008-03-04投稿
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智美はずらりと並べられたハードカバーのコーナーに立ち寄り、何気無く一冊を手に取った。表紙には爆弾の絵が描かれていた。
しかし不思議なことに裏や表、背表紙を見ても、タイトルがどこにも書いてないのだ。
印刷ミスだろうか。智美は店員に言おうと思いその本をレジまで持っていった。「すみません。この本タイトル書いてないですよ」
智美は本を差し出し、二十代前半と思われる女性の店員は覗き込むようにして見た。
「その本はタイトルがあってはいけないのです」
智美は言っている意味が理解できず、店員の目をじっと見た。恐らくその店員は、智美の目に、はてなマークが見えただろう。
「あってはいけないってどういうことですか?タイトルのない本なんて聞いたことないですよ」
「いやそれはですね、この本にタイトルがあれば成立しないのですよ」
いやいや、同じようなことを言ってるだけじゃないか。
「御理解していただけましたか?」
「できるわけないですよ。あってはいけないとか、成立しないとか、さっきから何を言ってるのかさっぱり」
「そうですか。では説明しますけど・・・」そう言って辺りを見渡した。
「あまり大きな声では言えないですけど、今私たちは小説の中にいるのです。そしてその小説のタイトルが"タイトルのない本"と言うのです。だからこの本にタイトルがあるとつじつまが合わなくなるのですよ」
店員の言ってることは、わかるようでわからなかった。
「今小説の中にいるのですか?」
「はい。だから今喋っていることも小説に書かれるのです」
ふと辺りを見渡した。壁に宣伝ポスターが大量に貼られている。そこには「決別」「指輪」等々絶賛発売中と書かれていた。それに気付いたらしく店員が言った。
「あのポスターの小説を書いている人がこの"タイトルのない本"を書いているのです。ですからこれは新作ということです」
「でも小説の中にいるなんて凄いですね」
「いや、期待しない方がいいですよ。有名な小説家が書いてるのと違い、素人が書いてる携帯小説ですから」
「そうなの?素人じゃ期待できないですね。どうせ面白くないでしょう」
「でもあまり作者の悪口言わない方がいいですよ。この小説を書いてるのは紛れもなく作者本人ですから今頃怒ってるかも・・・」
その時智美が持ってる本に書かれている爆弾が光だし、逃げる間もなく二人を吹き飛ばした。



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