唯一の光源が消され、再び完全な暗闇に満たされた体育館はそこに1000人も居るとは思えない程に静まりかえっていた。
そこへスポットライトがぱっと付き―それは演壇に向けられた。
『皆さんこれでも無関係と言えますか?』
強烈な灯りと1000人分の視線を浴びながら、梅城ケンヤは語り出す。
考え抜かれた演出だ。
『この様な強姦魔が、殺人鬼がここからわずか20kM南に、隣接した区にいるのです、しかも800人も!!』
演壇の上で梅城ケンヤは汗と拳を振り上げた。
『こんな恐るべき蛮行を、悪魔の所業を本当に許しても良いのですか?皆さんに問いたい!私達は誓った筈です!』
ゆっくりと、確実に、しかし激しい扇動の中で―\r
『この学校からあらゆるイジメを撲滅すると!あらゆる腐敗と汚職を追放すると!イジメにもイジメグループにも決して屈しないと!改革をやり遂げるまで一歩たりとて引き下がらないと!!』
生徒達はその中に呑み込まれて行く。
『今ここであの恐るべき乱暴を見逃し、不良校の狂暴さに脅え・妥協し・従うのならば何の為に我々は命をかけてまで改革の旗を掲げ、イジメと闘ってきたのですか!!違いますか!?』
仕組まれたシナリオ
『しかも拉致されたのは罪人とは言え、第一中学校―我々のかけがえのない同盟校・友人なのです!!彼等を見捨てて良いのですか!?友人すら助けない者が果たして改革が出来るでしょうか!?』
全ては梅城ケンヤの掌の内にある―\r
梅城ケンヤは言葉を止めた。
彼の見渡す限りに広がる暗闇はただ沈黙を保つのみだった。
『ですが』
梅城ケンヤは今度は静かなトーンで話し始めた。
『私とて諸君をいたずらに死なせたくない―諸君が反対ならば、私は会長職を辞任しよう』
これは賭けだった。
だがケンヤに恐れはなかった。
やがて―\r
生徒達は次々と声を上げ始めた。