え?
この東京に俺を知っている人なんていない。
「そうですがあなたは?」
俺は鳴り止まない拍手の中で振り向かないまま答えた。
(コンサートの関係者です。お話させていただきたいのですが)
急に静かになった。アンコールの演奏が始まろうとしている。
「嫌です」
と俺は言い、外に出ようとした。
その時俺が耳にした音はどこか聞いた事のあるフレーズ。あの優しい、癒されるあの曲
振り返って見ると、今度は白のドレスを来たキョンだった。同じように白のスポットライトを浴び、ドレスにますます透明感を引き立たせている。
その姿はまるでウェディングドレスのようだった。
立ち尽くす俺に関係者は再び話し出す。
(キョンさんは演奏が終わった後、あなたがいる事を舞台から去る前に見たのだそうです。そして私にあの人を呼んで欲しいとお願いされました。あなたを探すのに苦労したんですよ。ここにいるスタッフほとんど全員で顔の特徴、服装に一致するあなたを探してたんですから)
「そうだったんですか、ですがここで聞かせて下さい」
(え?ですがここでは…)
「ここで見ていたいんです、彼女が俺にこの曲を聞かせてくれる事、それは特別な事なんです。以前に聞いた時は私はとある理由で全て聞く事が出来ませんでした。だからこの音を1つでも逃したくないんです。彼女には後で俺から連絡しますから。」
(ですがそれでは…)
俺は真剣に関係者の人を見つめた。
どうやら関係者の人は折れてくれたみたいでそうですかと言い、演奏が終わった頃には俺の前からいなくなっていた。
同じくらいの歓声と拍手が鳴り響く中で俺は会場を後にした。
俺は外で携帯を取出し、キョンにメールした。
「キョン、演奏終わったかな?お疲れ様。嘘をついてごめんね。許してね。キョンの演奏は凄いよかった。練習の成果だね。優しいキョンの音色だったよ。アンコールの曲ありがとう。」
そして
「追伸、俺も毎日キョンのおかげでキラキラしてるよ。キョン、愛してる」
そう送って俺は今晩泊まる所を探し始めた