音がする。
軋むような、引っかくような嫌な音が。
私は寝られない。
横にいる妻にはやはり聞こえていないのか。
朝になり、私は妻に聞く「昨日、例の音がしたがきいたか?」
「聞いてないわ。あなたったら疲れているのよ」答えは同じだ。
疲れている。
気のせい。
あげくには精神病じゃないかしら…。
おかしい。
いやおかしいのは私なのか…?
その考えは何より恐ろしい。
青ざめた私を見て、妻の唇にうっすらと笑みが浮かんだのは…気のせいなのか?
一ヶ月も続いたある日、私は限界を感じた。
隣の妻の安らかな寝顔に苛立ちを覚える。
キキィ…キー…キイイ…
あああ!
おかしくなりそうだ!
私はベッドから抜け出しどこからともなく聞こえる耳障りな音を探した。
しかし…ない。
音の元がない。
キー…キキィ…
その時、私は自分の家に使われていない屋根裏があることを思い出した。
あそこしかない。
私は確信を得た。
天井の奥へと続く階段を数年ぶりに引っ張り出す…すんなりと階段は現れた。
私は登った。
音が大きくなる。
ガランとした暗い部屋のなかに、それはあった。
昔、捨てたはずの古いカセットプレイヤー。
音はここからしている。
その時、声がした。
「あなた?いやだ、見つけたの…」
その言葉は全てを表していた…私を追い詰めたのは妻…。
私はぼんやりした頭に昇ってくる怒りの奔流にまかせ、彼女の首をしめ…しめ続けた…。
終わった。
これで寝られる。
私はいまだに雑音を撒き散らすプレイヤーを力任せに蹴り飛ばし…気付いた。
コードが繋がっていない…馬鹿な…。
私はプレイヤーに飛び付き、プラグを差し込んだ…暗闇に慣れた目にプレイヤーは薄い緑の光を放った。
しばらくして、聞こえてきたのは妻の声だ。
数週間後に控えた、結婚のスピーチ。
嘘だ…馬鹿な…ここから聞こえていたんだ!
キー…
私の身体が凍り付く。
私は屋根裏の天窓を見上げ、座り込んだ。
天窓はほんの少し空いていた。わずかに歪んだその隙間から、その音は聞こえていた。
しかし…どうだというのか?不幸な間違いだったとはいえ、これで私は眠れるのではないか?
私は横たわる妻に寄り添うように寝転んだ。
妻の柔らかな声が眠りを誘う…。
結婚生活にはいろいろあると思います…それを乗り越えた時に、本当の人生が始まるのです…
キー…
キイイ……
キキィ…………