私が死んだら泣いてくれますか?
里沙からメールが来たのは、深夜の25時。
里沙は、どちらかといえば地味な少女だった。
中学一年の時に、初めて声をかけられたのだ。
万里子さんですよね?
私と、お友達になってもらえないですか?
実際、妙な子だと思った…敬語だし。
陰気な黒髪と対象的な、熱に浮されたような憧れを秘めた両目。
私は頷いていた。そうするより仕方ないような強い「押し」が、彼女にはあった。
里沙は、それから私の後をついてまわる犬になった。
万里ちゃん、素敵ね。
万里ちゃんて、本当優しいのね…。
そんな雨のように降り注ぐ言葉に、私はうんざりしていた。
私は里沙の他に沢山の友達がいた。
けど里沙には私しかいなかった。もちろん私以外と話したりはするし、付き合いだってあった。
けど全力で愛されていたのは私だけだ。
愛されて…。
そう。私は、里沙に愛されていたのだ。
それは異性に対する愛のようでもあり、子供が母親に求める愛のようでもあった。
里沙。
私は携帯に照らし出された一文を指でなぞった。
ある日、里沙には家族がいないことを知った。
彼女は遠慮がちに笑って言った。
私には大切なものが一つしかないの。
万里ちゃんしかいないの…。
私は爪先から頭のてっぺんまで震えが走った。
私は、その日から全力で逃げた。
大勢の友達の前で、彼女を無視した。
彼女の垢抜けない容姿を笑い蔑んだ。
私は嫌われたかった。
里沙の重さを脱ぎ捨て、楽しく過ごしたかった。
里沙は微笑んでいた。
私に笑われても、人に蔑まれても。
それからクラスが変わり…私は里沙を無視し続けた。
そして卒業の日。
一通の手紙…パステルブルーの紙が机に置いてあった。
万里ちゃんへ
ねえ、万里ちゃん。
私、本当は万里ちゃんと会ったの、ずっとずっと前なんだよ。
私のお父さんとお母さんが事故で死んだ病院で、私、万里ちゃんに出会ったの。
大人だらけの病室を抜け出して、ロビーで泣いていた私に、万里ちゃんは言ったよ。
どうして泣いてるの?
私、万里子っていうの。ねぇ、泣かないで。
万里子、怖いことから守ってあげるよ
その日から私、万里ちゃんが誰より大切になったの。
ごめんね…万里ちゃん。さよなら。
里沙。
あれから三年が経って、変えなかったアドレスに入ったメール。
私は、文字を…打った。
会いにおいで…