桜声

なぎさ  2008-03-06投稿
閲覧数[178] 良い投票[0] 悪い投票[0]



 僕の幹に背を預け少女が声を押し殺して泣いていた。ここ最近毎日,同じ時間に来る。
 僕の場所は寂しい。周りに仲間がいないんだ。杉ならたくさんいるのに。だから,少女が僕を選んでくれたのが嬉しかった。桜で良かったと思えたんだ。でも,この子はいつも泣いている。
 ――どうしたんだい??と毎回聴くけど,伝わったことはない。それがもどしくて人間の言葉が欲しかった。彼女の笑顔が見てみたかった。
 ぼくは後二年で百年生きたことになる。
 もうすぐ願いが叶う。




 わたししか知らない木がある。
 それは,桜の木。
 桜はわたしを元気にしてくれる。だからわたしは悲しくなったり,辛いのが我慢できなくなったらいつも桜の木に会いに行ってる。 いつもどうり,桜の木に背を預けると,不思議な事が起きた。
 桜の木を見上げると〈音〉が聞こえたんだ。
 それはこう聞こえた。
『君の唄
君の物語
風に舞い どこまでも飛んで行きそうだ
不安な唄
迷ってるんだろう?』
 桜そう言って舞った。
『ぼくらはすぐに散ってしまうけど
君の夢は 君の永遠の人生そのものさ』
「で,でもわたしは 永遠になんて生きられないわ。」 桜の枝がざわめく。まるで首をふってるみたいに。 少し嬉しそうにも見えた。
『君の一生は 君の命のなかで永遠さ
そしてまだ君は冬の桜
春になったら また会おう
きっと 美しい花が咲いてるだろうから』
「…また春に?」
 強い風が突然吹く。その風で桜の花びらは散っていく。後に残ったのは 少しの桜の花と 生き生きとした 緑の葉だけだった。
 わたしはなんでだか悲しくなって涙がでた。
『君の唄
美しい花
わすれないで 僕の唄

また 春の妖精は魔法をかけにくる
それまで しばしの沈黙 しばしの眠り』

 最後に 小さな〈声〉が風に流され消えていった。
それから この桜の木は 前よりもわたしの特別な木になった。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 なぎさ 」さんの小説

もっと見る

ファンタジーの新着小説

もっと見る

[PR]
人気雑誌多数掲載
脂肪溶解クリーム


▲ページトップ