生徒総会が終り―\r
『お待ち下さい梅城会長!』
細部の詰めを行うべく休む暇なく役員会が召集された第一会議室へと向かおうとする梅城ケンヤを、副会長・港リリアは引き止めた。
『危険です―危険過ぎます!』
一層激しくなる夕立の雨音が鳴り響き、分厚い雨雲によって薄暗くなる一方の廊下の中で―\r
彼女は柳眉を逆立てていた。
『こんな無謀な闘い―認める分けには行きません!』
リリアの声は怒りと憂いに満ちていた。
『副会長―反対意見なら役員会で聞こう』
だが、梅城ケンヤに当然翻意する様子はなかった。
『会長!』
港リリアが不満を露にしたと同時に派手に雷光がきらめき、廊下と二人の表情を鮮烈に照らし出した。
『それでは答えになってません!』
先の光に劣らぬ轟音が一帯を揺るがし―ようやく蛍光灯がともされたが、それでも廊下の暗さ・冷たさは払拭しきれない。
『大勢の生徒が死に―この学校の存続すら危うくなるのかも知れないのですよ!』
確かにそうだ。
港リリアの言う通りだ。
だが―\r
『だからこそ君がいる』
梅城ケンヤの自信は崩れなかった。
『こうして正論を説き、私を止める事の出来る君がいるじゃないか』
梅城ケンヤの微笑に―\r
港リリアはあらん限りの憎しみを込めた視線を送った。
『会―長…!』
『済まない』
ケンヤは信頼する部下に軽く頭を下げた。
『君がいるからこそ、私は外で闘える。仮に私が倒れても君がこの学校を立て直し、改革を引き継いでくれる―だから私は今回の《無謀な闘い》を決断した』
『会―長…!』
港リリアは憤怒にその美貌を歪めた。
『今しかないんだ、今しか―イジメ撲滅は全国的な運動にしなければならない。その絶好のチャンスなんだ。もちろんそのリスクは巨大だ。ひょっとしたら私も死ぬかも知れない―だからこそ、この前の組織改革で君に校内を守れるだけの兵力を与えた』
そうだ。
全滅を避けるためのあれは布石だったのだ。
『会…長!』
『そうだ。全ては君がいるから出来る事なのだ。君のお陰で私は無謀な賭けに敢えて挑む決心がついた―卑怯な言い方かも知れないが』
再び雷が閃光を放ち、耳をつんざく重低音を鳴り響かせる間、二人は始終無言だった。