年が明けて、新チームとしてのスタートをきった。最上級生となった僕らは、試合に出られる喜びに沸き立っていた。『この9人で試合ができる』という事が、単純にうれしかったんだ。
周りの大人たちは、期待というより、『この子たちを、この1年どうやって盛り上げていこうか…何とか勝たせてやりたい。決勝リーグに上がれるくらいにはしてやりたい…』などと、思っててくれたらしいけど。
案外、僕らに不安はなかった。笑うかもしれないけど、結構やれる自信は、あったんだ。
そんな親たちの、小さな期待と大きな心配の中で、僕らの最後の1年が始まった。
2月某日
昨年、雨のせいで中止になった大会が順延されて、この日、行われることになった。
2月のまだ寒い、海風の冷たい日だった。
1試合目…13−0 快勝だった。
2試合目…初回の打席、3番サードが、顔面にデッドボール。一気に、ゲームが凍った。ベンチに下がった彼の目には、さすがに涙が滲んでいた。
試合が再開された。
不安に見つめる仲間の目があったが、彼のためにと、一つになったチームが、そこにあった。
7−2…予選2勝で、念願の決勝リーグ進出だ。
準決勝…5−3 逆転されて、さらに逆転。熱戦の末、4番の劇的ホームランで、決勝進出を決めた。
ピッチャーの好投。打席に立たない彼は、攻撃の時、誰よりも声を出した。キャッチャーは、ボールを後にそらさなくなった。ショートのキャプテンは、守備でチームをひっぱった。デッドボールを受けたサードも復活し、守備で魅せた。他のメンバーも、それぞれにヒットを打ち、レフトはバントを決め1番に繋いだ。みんなで、掴んだ勝利だった。そして、決勝戦へ…。
0−7のコールド負けの完敗だった。手も足も出せないままの、力の差を見せつけられた僕らだったけど、このチームとの戦いが、このチームを追い続ける事が、いつか『勝つ』という事が、僕らの目標の1つとなった。
『準優勝』は、僕らにしては出来すぎの、思いもよらず期待外れの初タイトルとなってしまったわけだった。