僕に気付いたのか、彼女はゆっくり振り返った。
彼女の姿は静かに降り積もる雪を思わせた。
一瞬にして目を奪われる不思議な美しさ。
僕はやっと口を開く。
「君は誰。」
彼女は何も答えなかった。
何も話さなかった。
僕はそれでよかった。
それから毎日彼女の元に通ったが、ただ隣にいるだけでよかった。
それだけ彼女は魅力的だった。
時々彼女は僕を見て微笑みかけた。
それだけで彼女が感じることが伝わってくる気がした。
なぜ彼女はここにいるんだろう。
なぜ僕はこんなにも彼女に心奪われるんだろう。
そんな疑問も彼女に会うと全て忘れた。
彼女の存在が全てだった。
彼女の手を握ってみる。
見た目以上にか細い手。
僕の心に初めての感情が芽生えた。
彼女を守らなければ。
僕は彼女を抱きしめた。
「夏が…夏が終われば」
初めて彼女の声を聞いた。透き通るような美しい声。
とめどなく流れる彼女の涙をぬぐうことも出来ず僕も泣いていた。
彼女の苦しみが痛いほど伝わってくる。
僕は全てを悟った。
次の日そこに行くと思った通りの光景が僕を迎えた。
そこには彼女も
小屋さえも
無かった。