母親は、声にならない叫びをあげた。
血管が止まりそうなくらい真剣ににぎりしめる女の子の両手は、物理的な声をあらわしていた。
しかし、母親は右手に掴んでいる封筒を左手で素早く取ると、周一にそれを投げた。
『神社へ早く行って!』
母親の覚悟が伝わったのか、周一は迷わず神社の方へ走っていった。
母親と写真の二人が残されたそこに、警備の人が自転車の明かりをチラホラさせて近づいて来た。
それに気付いた二人は、手を繋いでスゥ…っと、消えた。
一人暗闇に残された母親は、痛そうに右腕をさすっていた。
『大丈夫ですか!?』
自転車の明かりに照らされた母親は、警備の人をじっと見ていた。
周一は前方で激しく揺れる懐中電灯の明かりを頼りに、神社へ走っていた。
『…あった!鳥居!』
神社の入口とも言えそうな鳥居の下をくぐり、ようやく神社へ着いた。
『神主さん!神主さん!』
切らした息で叫ぶが、一向に神主が出てくる気配はない。
『(…母さん)』
肩を撫で下ろし、手に持った封筒を見つめた。
背後からザッザッと砂を踏む音がしている。
『……』
周一は地面を殴った。
背後の足音が一番大きくなった所で消えた。
『…』
あの二人だ、と。ゆっくり立ち上がる。
『…うっ……!』
立ち上がり振り向こうとした時、小さい白い手が周一の首に伸びた。
力無く、反射のように首元へいこうとする周一の腕は、大切に持っていた封筒を砂の上に落とした。
真っ黒な顔が、周一の首を締めている。
落ちた封筒を目を下にして見ると、男の子が取ろうと腕を伸ばしていた。
『や……めろ…!!』
しかし、白い手がギリギリと首を締めている。
何でだろう、何でたった写真一枚でこんな思いをしなくちゃいけないんだよと、周一は最後に考えていた。
<…!>
『…ゲホッ……ゲホッ』
急に首を締めていた力が無くなった。
霞む目で何がどうなったのかと振り向くと、あの男の子と女の子が苦しそうにしていた。
そして、こちらに黒い眼差しを向けながら消えていった。