「こっちだ。」
突然声をかけられた。振り返ると、見たこともない男の人が部屋の隅の椅子に腰掛けて、手招きしていた。
知らない人なのに、怖くなかった。
優しそうな人、という訳でもなかった。それどころか、
だぶだぶ
の
ぼろぼろ
の服を着ていて、ちょっと近寄りがたい。
ただ顔だけは
にこにこ
している。
男が、
おいで
おいで
大きく手招きしているものだから、行かずにいられなくなった。
「よーし、いい子だ。」
男はゆっくり頭を撫でてくれた。何故だか、その途端、ずっと前から男の事を知っているのを思い出した。
ただ、誰だったかは思い出せない。
「なーおっちゃん、オレのママがな、気付いてくれへんねん。」
男は、
かく
と肩を落とした。
「お、おっちゃん・・。まぁ、いいかお前達からすれば、そうなるか。」
あのな
男はその大きな腿の上に乗せてくれた。
「もう、お前は死んでしまったんだ、だからお母さんにはお前が見えない。お母さんにも触れない。」
ごらん
母親を指差して、
「あれはお前の生きていた頃の体なんだ。お前のお母さんはあっちが動かなくなったら君が死んだと思ってる。」
しかし、
頭の上から今度は覗きこんで、
「そうじゃない、生きている人から見えなくなっただけなんだ。」そう男は不思議な事を言った。