テレビからはお笑い芸人の威勢のいいツッコミ、ボケ、笑い声が聞こえてくる…
「なんかいい仕事ねぇかなぁ…」
そう呟いたのは、畑村智弘、23歳、工場に勤務している会社員。
「別に、仕事には文句はないんです…皆さんにもよくしてもらっていますし…
はい、えぇ今月一杯で、えぇすいませんお世話になりました」
特に考えもせず仕事をやめてしまった。仕事はキツいが給料もよかったし、周りとも仲良くできていた。問題はなかった…
だが自分が本当にやりたい仕事ではなかった。
「甘いんだよなぁ〜!なに考えてやめたんだよ?…………………………」
彼女の父親にも説教された。
「分かってんだよ甘いことくらい…」
言い返せなかった。そりゃあ、自分でも次の仕事も決まってないのに辞めることは無謀と分かっていたからだ。
「接客やりてぇなぁ前みたいに…」
以前、ホテルに四年近くいた。だが給与面で納得行かず思いきり転職した。だが、現実は甘くなかった…
考えが甘かった…
「あんたはなにがやりたいの?」
少しあきれた声で彼女に聞かれた。
「仕事だよ…」
仕事なんて、やりたいのではなくやらなきゃならない事だ。彼女の聞き方にイラついていた。
「まぁとりあえず職安行きますか」
地元の職業安定所で仕事を探していたが、自分がしたい仕事がなかった。
そんなこんなで1ヶ月がたった…
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン……
「うぜぇ誰だよ朝から」時計の針は八時半を指していた…
「誰かいないのかよ…」いるわけはない、自分の家族はみな仕事に行っている。
ピンポーン
「ハイハイ今行くから待っとけよ」
スタスタスタスタ
ガラガラ
「おはようございます」
「どちらさん?」
「あなたです」
「はい?」
「………………………」
それ以降、男、いや彼は黙り込んだ。
「なんですかあなたは」
「………………………」
「シカトかよ」
そう呟いたあと、飼い犬が騒いでいないことに気付いた。いつもは家族以外のものが敷地に入れば、帰るまで吠えるはずなのに…
何気なく男の顔を見た……
「………………………………………………………………………………………………………えっ」
自分だった、無気力に立ちすくんでいた自分がそこにいた。いや自分に瓜二つの男と言えばいいだろうか…
気味が悪くなった。