俺は祟りなんて信じちゃないが、あれは祟りとしか言い様がない。
小さい頃、外へ遊びに行く前に必ず体へ塩を振掛けられた。塩を振らずに出掛けると、酷く怒られたものだ。
厄除けとして、俺の住んでいる地域で代々受継がれてきた習慣だった。
それと、子供が悪さをすると大人達は「呪毛様とこ連れてくぞ」とよく脅した。子供はその言葉を聞くとエラく怖がった。
何故なら、この地域に伝わる"唄"をみんな聞かされて育ったからだ。
♪
川から響く地鳴りはまだか?呪毛様は夢の中
川原で鳥を見ないが何故か?呪毛様が食ったから
まだまだ足りぬ食い足りぬ
今度は何を食いたいか?
子供がいいぞおいしいぞ
足もげ手をもげ目を食らえ
♪
大人になって改めて聞くと、実に不気味な唄だ。
唄に出てくる「呪毛様」とは近所の川原にポツンと祭ってある小さな祠の事で、それを恐れてそこへ近寄る子供は誰一人いなかった。
まぁ、あんな不気味な唄を聞かされたら誰だって近寄りたくないだろう。
子供だけじゃなく、近寄ると祟られると言って大人達も避けていた。
ある夏に、一組の家族が引越して来た。
その家には5才になる一人息子がいて名前を伸一といった。
引越して一か月位経った頃、伸一君が居なくなったから捜してくれと近所の奥さんが家へやって来た。
俺と父ちゃんは夕暮れ時に子供が遊びそうな所を見てまわったが見当たらなかった。
近所の人総出で捜したが、見つからない。
伸一の両親はエラく動揺していた。
何処か心辺りはないか訪ねるが、パニック状態なのか答えない。
しばらくして、父親が伸一は魚が好きで、近所に川があって喜んでいたから川へ行ったのかも。と言った。
それを聞いた大人達は、青い顔をして全身に塩を振り、川原へ向った。
何十分かして、毛布に包まれた伸一君を見た時、俺は吐気を覚えた。
全身紫色に変色して、目玉は無く、手足が有り得ない方へ折れ曲り、それでも生きている男の子。
伸一の母親はそれを見て気絶した。父親は我が子の変わり果てた姿に絶叫した。
近所のばあちゃんが伸一の父親に言った。
「何故塩を振らんかった?塩を振っとけばこうならんかったかもしれんのに」 と。
それから伸一君は救急車で病院へ向かい一命を取留めた。