それから数ヶ月して、伸一君が退院した。
あれからというもの、伸一君は外で遊ばなくなり、姿を見る事は無くなった。
ある日、学校の帰り道で伸一君が一人外で遊んでいるのを見かけた。
俺が「久しぶり」と声をかけると嬉しそうに笑ったが、その目にはサングラスがかけられていた。
子供だった俺は何も考えずに「目どうなった?」と聞いた。
すると伸一君はしばらく黙ってこう言った「お母さんに怒られるから普段は外さないんだけど、お兄さんには見せてあげるよ」と。
ゆっくりと外されたサングラスの向うを見て、俺は息を飲んだ。
真暗い目玉も何もない穴から黒い髪の毛みたいなのがビッシリと出ている。
伸一君は笑顔で「僕、目は見えなくなっちゃったけど、病院の先生が新しくカッコいい目玉を入れてくれたんだ」と言った。傷付けない為に両親が嘘を言ったんだと思った。
それからすぐに、伸一君の姿をまた見なくなった。
噂では穴という穴から、あの毛が出て来て、最期には脳みそまでやられて、伸一君はもう脳死状態だとか…。
一家は冬に引越して行った。伸一君の姿は最後まで見なかった。
俺が大人になって、一つ分かった事がある。
「呪毛様」は子供を祭った祠らしい。
昔、この地域で大不作が続いた頃に、餓え死にする者を減す為、まだ働き手にならない子供を皆殺しにした。
そして、その霊を静める為に子供らの髪の毛を祭り祠を作った。
それが呪毛様の始まり。
霊を静める為に作ったのに、全然その怒りは静まらない様だ。
何故子供を祟るのか、何故目や手足をもぎ取ろうとするのかは分からなかった。
俺は多分、あの出来事を一生忘れないだろう。