手を取って、冷たさに驚いて、引っ張りあげられて、足が地面について…
ガクッと膝が折れた。
コンクリートに尻餅ついて、眼を見開いた。
私…本当は怖かった?
はっきり言って、恥ずかしかった。腰が抜けた。私の「覚悟」の甘さに、赤面してもしたりない。私はキリンを見上げる勇気もないまま、じっとコンクリートの染みを見つめた。
まるでそれが重要であるかのように。
「死ぬってさ、ある意味テンションが必要なんだよね…」
人事みたいに(まさに人事だけど)言ってるキリンに無性に腹が立つ。
その勢いで、立ち上がった。
「さあ、さっさともっといいとこに連れていってよ。まさか嘘じゃないでしょ?」
キリンは素直に頷く。
「まあね。飛び降りるならあそこしかないよ。たださ…トリさんに足りないものがあるんだよね」
「足りないもの?」
「遺書」
遺書…。そういえば、書こうとさえ思わなかった…なんでだろう?
でも考えるより先に言葉が出た。
「必要性がないもの」
キリンは驚いたみたいだった。人を食った笑みが完全に消える。
「なんで?じゃあなんで死ぬの?…世の中の仕打ちへの仕返しじゃないの?…おたく相当変わってるね」
「孤独なのは世の中のせいじゃないもの。自分のせいじゃない?そういう風にしか生きてこれなかった自分のせいでしょ?…人のせいにする気なんか最初からないよ」
そうだ。
その通り。今、初めて理由がはっきりした。
孤独が嫌なんじゃない。そういう風にしか生きられない自分が嫌なんだ。…驚いた…人に話すと自分が見えてくるなんて。
「へぇ。なるほど…トリさんてよくよく…いや、まあいっか。じゃあ、行く?死にたいんでしょ」
「もちろん」
…やっぱり変な人。
ううん、変な二人。
こんな綺麗な空の下で、生き生きと「死ぬ」話してるなんて。
かたやキリン。
かたやトリ。
どっちも世界にとって、害がない…けど薬にもならないのかも。
私がにやにやしているとキリンが首を傾げた。
そのことにまた、笑ってしまった。
面白い、と感じていた…
灰色の校舎を抜けて、キリンが前を歩く。
目的地が近くても遠くても構わない。
授業が続いてる教室は振り返らない。
先生に呼び止められたら…今の私なら、追いつけないくらい早く走れる!
キリンの背中だけ見て、歩いた。
変な人。
振り返りもしない。
私がついてくること、疑いもしない。
…さあ歩こう